症例紹介Case

猫の慢性腎臓病(慢性疾患)における食欲不振、体重減少への対策|新薬「エルーラ」のご案内

食欲不振や体重減少を示す猫への新たな選択肢「エルーラ」について

「エルーラ」とは?

「エルーラ」は2020年、アメリカ食品医薬品局(FDA)により承認された、慢性疾患の進行に伴う食欲不振や体重減少の改善を目的とした治療薬です。エルーラの有効成分であるカプロモレリン(capromorelin)は、主に食欲を刺激する作用を持つ「グレリン受容体作動薬」です。慢性疾患を持つ猫にとって適切な栄養を摂取させ、体重減少を防ぐことがこの薬の主な目的です。

エルーラの作用機序

エルーラの主成分であるカプロモレリンは、体内で分泌されるホルモンであるグレリンと似たような働きをするように合成された薬剤です。グレリンは「空腹ホルモン」とも呼ばれ、体が空腹であるときに分泌され、脳の視床下部にあるグレリン受容体に結合することで、食欲を刺激します。カプロモレリンはこのグレリン受容体に作用することで、動物に「空腹感」を感じさせ、食欲を増進します。

具体的には、以下のようなメカニズムが働きます:

  1. 食欲の刺激:カプロモレリンがグレリン受容体に結合すると、視床下部が活性化され、食欲が増進されます。
  2. 成長ホルモンの分泌促進:グレリン受容体の刺激は、成長ホルモンの分泌も促進します。このホルモンは代謝の調節や体重の維持に重要な役割を果たします。

グレリン受容体の働きについて詳しく

グレリンとは?

グレリンは、1999年に発見されたホルモンで、主に胃から分泌され、「空腹ホルモン」とも呼ばれています。グレリンの主な機能は、脳に「空腹」を伝え、食欲を刺激することです。食事をすることでグレリンのレベルは低下し、逆に空腹時にはグレリンの分泌量が増加します。

グレリンの作用機序

グレリンは、主に視床下部(ししょうかぶ)にあるグレリン受容体(GHS-R: Growth Hormone Secretagogue Receptor)に結合して作用します。視床下部は、体のさまざまな生理的機能を調節する脳の部位で、食欲やエネルギー代謝、体温調節などを司っています。

グレリンが視床下部のグレリン受容体に結合すると、以下のような反応が引き起こされます。

  1. 食欲の刺激:視床下部にあるグレリン受容体が活性化されると、脳に空腹感を感じさせ、食欲を増進させます。これにより、摂食行動が促進され、必要なエネルギーが体に取り込まれます。
  2. 成長ホルモンの分泌促進:グレリンは、成長ホルモン(GH: Growth Hormone)の分泌も促進します。成長ホルモンは、筋肉や骨の成長をサポートし、代謝を高める役割を持っています。特にエネルギー代謝や脂肪の分解に重要な役割を果たします。
  3. エネルギー保存:グレリンは、脂肪の蓄積を促進し、体がエネルギーを節約するように働きかけます。これは、飢餓状態に備えた体の防御機構の一部と考えられています。

グレリン受容体作動薬の臨床応用

グレリン受容体作動薬の働きは、以下のような臨床状況で特に重要視されています:

  1. 栄養不良や食欲不振の治療:グレリン受容体作動薬は、癌や慢性疾患、腎臓病などで食欲を失った患者や動物において、栄養補給を促進するために使用されます。食事の摂取量を増やすことで、体力の回復を図ります。
  2. 筋肉量の維持:グレリンの成長ホルモン分泌促進作用は、筋肉の成長や維持に役立つため、体重減少や筋肉萎縮が進行している状況でも、筋肉量を保つために役立つとされています。
  3. 代謝性疾患の管理:グレリンとその受容体は、エネルギー代謝に深く関与しているため、肥満や糖尿病などの代謝性疾患に対する治療研究が進められています。グレリンの作用を調節することで、食欲やエネルギー消費のバランスを整えることが期待されています。

エルーラの使用法

  1. 1日1回、体重1kgあたり1mlを経口投与します(バニラフレーバーつき)
  2. 通常、すぐに効果が見られるわけではなく、数日から数週間で徐々に食欲が改善します。
  3. 獣医師の指導のもと、長期的な使用が可能です。

エルーラは、特に食事療法や他の腎臓病治療薬と併用することが一般的で、食欲不振や体重減少の症状を緩和するサポートとしての役割を果たします。

エルーラの効果と臨床試験

エルーラの臨床試験では、以下の効果が確認されています:

  • 食欲増進:投与後、猫の食欲が明らかに改善し、体重の減少を抑える結果が出ました。
  • 体重の維持・増加:治療により、体重が回復するか、少なくとも現状を維持することができました。
  • 生活の質の向上:栄養不足が改善されることで、猫の全体的な健康状態が改善し、活動的な様子が見られました。

ただし、個体差があり、すべての猫に同じ効果が出るわけではないため、治療効果のモニタリングが必要です。

エルーラの副作用と注意点

エルーラの副作用は、軽度であることが多いものの、飼い主は注意を払う必要があります。以下のような副作用が報告されています。

  • 嘔吐や吐き気:一部の猫では、薬を投与後に軽度の嘔吐が見られることがありますが、通常は一時的です。
  • 下痢:腸の動きが変化する場合があります。
  • 活動量の低下:稀に、エルーラを使用した後に猫の元気がなくなることが報告されています。

これらの症状が続く場合や悪化する場合は、獣医師に相談することが推奨されます。また、エルーラは妊娠中や授乳中の猫には使用できない場合があるため、獣医師と事前に相談してください。

エルーラの使用上の注意点

  1. 単独では慢性疾患を治すことはできない
    エルーラは、食欲増進や体重減少を防ぐためのサポート薬であり、慢性疾患そのものの進行を抑える薬ではありません。したがって、エルーラの使用は、他の治療法(腎臓保護薬、特別食など)と併用する必要があります。
  2. 獣医の指導のもと使用する
    エルーラは処方薬であり、獣医師の診断と指導に基づいて使用します。定期的な血液検査や健康チェックを行いながら、投与量や使用期間を調整することが重要です。
  3. 低タンパク質の食事管理
    腎臓病の猫には、腎臓に負担をかけないように低タンパク質の食事が推奨されています。エルーラの使用によって食欲が回復した場合でも、腎臓に配慮した食事を継続することが必要です。
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