症例紹介Case

犬のアトピー性皮膚炎について|その原因・治療法など | トレア動物病院 | 川崎市多摩区

こんにちは、川崎市多摩区生田(中野島)にあるトレア動物病院です。今回は、犬のアトピー性皮膚炎の原因とその治療法について、より詳しくご説明いたします。当院では犬猫の皮膚病治療に特化しており、生田だけでなく川崎市全域、狛江市、稲城市、調布市などの近隣の市町村からも多くの患者様にご来院いただいております。


犬のアトピー性皮膚炎とは?

犬アトピー性皮膚炎は、遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合って発症する、皮膚に炎症やかゆみが生じる慢性的な皮膚疾患です。

アトピー性皮膚炎が発生する要因

遺伝的背景

アトピー性皮膚炎は、遺伝的素因があると言われています。日本では特に、
・シーズー
・ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア
・ゴールデン・レトリバー
・ラブラドール・レトリバー
・ミニチュア・ダックスフント
・フレンチ・ブルドック
・柴犬
・トイ・プードル

などに多く見られます

アレルギー体質

アレルギー体質とは、特定の物質(アレルゲン)に対して免疫系が過剰に反応しやすい体質のことを指します。通常、免疫系は体を病原体や有害な物質から守るために働きますが、アレルギー体質の人や動物では、無害な物質にも免疫系が異常に強く反応してしまいます。この過剰な反応が、アレルギー症状を引き起こします。

 アレルギー体質のメカニズム

  1. アレルゲンの侵入: 花粉、ダニ、食物、ホコリ、カビなどがアレルゲンとして体内に入ります。
  2. 免疫系の反応: アレルギー体質では、これらのアレルゲンが「危険なもの」として誤って認識され、免疫系が抗体(主にIgE)を作り出して対抗しようとします。
  3. ヒスタミンの放出: アレルゲンが再度体内に入ると、IgE抗体がアレルゲンに結びつき、免疫細胞からヒスタミンなどの化学物質が放出されます。このヒスタミンが炎症やかゆみ、鼻水、くしゃみ、腫れなどのアレルギー症状を引き起こします。

皮膚バリア機能の低下

アトピー性皮膚炎における皮膚バリア機能の低下は、疾患の重要な要因の一つです。皮膚は本来、外部からの刺激や有害物質、アレルゲンの侵入を防ぐ「バリア」として働いていますが、このバリア機能が低下すると、アレルギー反応が起こりやすくなります。

 ・皮膚バリアの役割

健康な皮膚の表面には、角質層と呼ばれる層があり、これが皮膚のバリアとして機能しています。角質層は主に以下の働きを担っています:

  1. 水分を保持する: 角質層は皮膚の水分を保持し、乾燥を防ぎます。
  2. 外的要因からの防御: アレルゲンや病原菌、化学物質が体内に侵入するのを防ぎます。

 ・バリア機能の低下による影響

アトピー性皮膚炎では、遺伝や環境的な要因により、このバリア機能が低下しやすくなります。具体的には、皮膚の保湿機能が低下し、外的な刺激やアレルゲンが簡単に皮膚を通過するようになります。これにより、以下の問題が生じま:

  1. 乾燥や荒れ: 皮膚の水分が蒸発しやすくなり、乾燥やひび割れが起こりやすくなります。
  2. アレルゲンの侵入: 花粉、ホコリ、ダニ、カビなどのアレルゲンが皮膚内に容易に侵入し、免疫系が過剰反応を起こします。
  3. 炎症やかゆみ: アレルゲンの侵入により、免疫反応が引き起こされ、炎症やかゆみが生じます。これがアトピー性皮膚炎の症状の悪化につながります。

 ・皮膚バリア機能の低下の原因

  1. 遺伝的要因: フィラグリンというタンパク質が皮膚のバリア機能を保つために重要ですが、このタンパク質が正常に機能しない遺伝的な要因が、アトピー性皮膚炎に関与しています。
  2. 皮膚の乾燥: 乾燥した環境や入浴のし過ぎ、強い洗剤などによって、皮膚の油分が失われ、バリア機能がさらに弱まります。
  3. 外的刺激: 化学物質やアレルゲン、紫外線など、外部からの刺激もバリア機能を損なう要因となります。

犬アトピー性皮膚炎の症状について

犬のアトピー性皮膚炎の特徴的な症状は、主に痒みを伴う慢性的な皮膚炎です。症状は個々の犬によって異なりますが、次のような共通の特徴が見られます。

1. 強い痒み

アトピー性皮膚炎の最も顕著な症状は、持続的で強い痒みです。犬は頻繁に自分の体を掻いたり、舐めたり、噛んだりする行動を見せます。特に次の部位に痒みが集中することが多いです:

  • 顔(目の周り、口元)
  • 耳(外耳炎を併発することもあります)
  • 脇の下
  • 足の裏や指の間
  • 腹部や内股

2. 皮膚の赤み(発赤)

痒みを伴う部分は、次第に赤く炎症を起こすことが多いです。犬が掻くことで皮膚が傷つき、赤く腫れたり、二次的な感染症を引き起こすこともあります。特に掻きやすい耳や顔周辺、足の裏などが炎症を起こしやすい部位です。

3. 皮膚の乾燥やフケ

皮膚のバリア機能が低下しているため、皮膚が乾燥しやすくなります。乾燥した皮膚はフケが出やすく、これもまた犬の痒みを増幅させる原因となります。

4. 色素沈着や苔癬化

長期間にわたる掻き壊しや炎症が続くと、皮膚の色が黒ずんだり、硬く厚くなる色素沈着苔癬化(たいせんか)と呼ばれる状態になることがあります。これらは皮膚が慢性的に刺激を受けた結果、組織が変化するために起こります。

5. 脱毛(毛が抜ける)

かゆみや炎症のために、犬が過度に掻いたり噛んだりすることで、特定の部位に脱毛が見られることがあります。耳や足、顔周辺で毛が薄くなり、肌が露出することもよくあります。

6. 耳のトラブル(外耳炎)

アトピー性皮膚炎の犬では、しばしば外耳炎が併発します。耳が痒く、しきりに耳を掻いたり、頭を振ったりする行動が見られ、耳の中が赤く腫れたり、耳垢が増えることがあります。外耳炎が慢性化すると、治療が難しくなる場合もあります。

7. 二次感染(細菌や酵母菌の感染)

犬が皮膚を掻きむしることで、皮膚のバリアがさらに損なわれ、細菌や酵母菌(マラセチア)による二次感染が発生しやすくなります。これにより、膿が出る、悪臭がする、皮膚が湿った感じになるといった症状が追加で見られることがあります。二次感染が起こると、さらにかゆみが強まり、症状が悪化します。

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犬アトピー性皮膚炎の診断について

犬アトピー性皮膚炎を確定的に診断できる検査はありません。臨床症状やアレルギー検査、類似する他の疾患の除外により診断がなされます。

アレルギー検査の種類と役割

犬のアレルギー反応を特定するために、いくつかの検査方法がありますが、その中でも最も信頼性が高いとされているのが皮内反応検査です。これは、犬の皮膚にアレルゲンの候補物質を注射し、皮膚の反応を観察して、どの物質がアレルギーの原因かを特定する方法です。注射した部分が赤く腫れるなどの反応が見られれば、その物質がアレルゲンの可能性が高いとされます。

また、最近は血液検査(IgE検査など)の精度も向上してきています。これは犬の血液中に含まれるIgE抗体の量を測定し、アレルギー反応を示す物質を特定する方法です。ただ、これら検査はアレルゲンを特定するための検査であり、アトピー性皮膚炎と診断するためのものではありません。あくまでもかゆみ悪化要因を特定するための検査です。

アレルギー検査の限界

アレルギー検査はあくまでアレルギーの原因物質を推定するための検査であり、「現在犬が抱えている痒みがアトピー性皮膚炎によるものであるかどうか」を直接的に判断するものではありません。たとえば、犬が疥癬という寄生虫に感染している場合、アレルギー検査を行うと、ハウスダストマイトなどに陽性反応が出ることがありますが、それが痒みの本当の原因とは限りません。あくまでもこれら検査結果を元に総合的に判断する必要があります。

診断における重要なポイント

現在の「犬アトピー性皮膚炎の標準的治療ガイドライン」によれば、アトピー性皮膚炎の診断は、犬の症状や病歴を総合的に評価することが重要とされています。つまり、アレルギー検査の結果に頼るだけではなく、獣医師が基本的な皮膚検査や他の疾患の除外診断を行いながら、全体の状態を慎重に判断する必要があります。ただし、アトピー性皮膚炎と診断された場合には、治療や管理の方針を決定するためにアレルギー検査が役立つこともあります。アレルゲンを特定し、それを避けることで、症状のコントロールをより効果的に行うことが可能です。

他の病気を除外することの重要性

アトピー性皮膚炎を正確に診断するためには、他の痒みを引き起こす病気を除外することが不可欠です。これを行わないと、誤った診断に基づいて治療を進めてしまうリスクがあります。以下の病気は、アトピー性皮膚炎と似た症状を持っているため、慎重な除外診断が必要です。これらの病気は適切に治療すれば治癒可能ですが、アトピー性皮膚炎は完治が難しいため、まずは治療可能な病気の診断を優先するべきです。

アトピー性皮膚炎と間違えやすい病気

  1. 表在性膿皮症
  • 症状: 毛穴(毛包)に細菌が侵入し、炎症を引き起こす皮膚炎で、赤い発疹やプツプツした膿疱、環状の赤みが現れます。強い痒みが伴うことが多いです。
  • 原因: 原因菌であるブドウ球菌は普段から皮膚に存在する常在菌ですが、皮膚バリア機能が低下していると皮膚内に侵入し、問題を引き起こします。アトピー性皮膚炎の犬は皮膚のバリア機能が弱いため、膿皮症を繰り返すことがよくあります。
  • 治療: 殺菌性シャンプー、クロルヘキシジンの概要、抗菌薬が使用されます。治療を早くやめると再発や薬剤耐性菌の問題が起こることがありますので、必ず獣医師の指示に従って治療を継続してください。

2. マラセチア皮膚炎

  • 症状: マラセチアという酵母菌が皮膚に過剰に繁殖し、赤みや痒みを引き起こします。脂っぽい皮膚や外耳炎の悪化の原因にもなります。
  • 原因: マラセチアは正常な犬の皮膚にも存在しますが、皮膚が弱っているときや皮脂の分泌が過剰なときに異常増殖します。
  • 治療: 外用薬、内服薬、そして抗真菌薬のシャンプーを用いて治療し、1ヶ月程度で改善が期待できます。

3. 疥癬

  • 症状: 眼では見えない小さなダニが皮膚にトンネルを作り、それに刺されると強い痒みを引き起こします。犬同士の接触や環境中のダニが感染源となります。
  • 診断の難しさ: 症状がアトピー性皮膚炎と似ており、検査で見つけにくいため、「診断的治療」として駆虫薬を投与し、症状の改善を観察する方法が用いられます。
  • 治療: 駆虫薬を使用し、4週間程度で治癒します。

4. ニキビダニ(毛包虫症・アカラス)

  • 症状: 通常、犬に存在する寄生虫ですが、免疫力が低下したときに過剰増殖し、炎症を引き起こします。痒みは通常少ないですが、細菌感染が加わると痒みが強くなります。
  • 治療: 駆虫薬を投与し、3ヶ月以上の治療が必要です。再発が続く場合は、免疫力低下の原因を特定することが求められます。

5. ノミによる皮膚炎

  • 症状: ノミに刺されることで激しい痒みが生じます。ノミアレルギーがある犬では、少し刺されただけでも強い症状が現れることがあります。
  • 治療: ノミの駆除を行えば、比較的短期間で改善します。

5. 食物アレルギー

  • 症状: 特定の食材に対するアレルギーが原因で、皮膚に痒みや炎症が発生します。
  • 診断方法: 食物アレルギーを特定するには、最低でも2ヶ月間の「除去食」を用いた食事管理が必要です。除去食とは、特定のアレルゲンを含まない食事を与え、皮膚の改善を確認する方法です。アトピー性皮膚炎と食物アレルギーが併発していることもあります。

治療方法と管理(総論)

アトピー性皮膚炎の治療は、症状の軽減と生活の質の向上を目的として行われます。治療法は、症状の程度や個々の状況に応じて異なりますが、一般的なアプローチは以下の通りです。

1. アレルゲン回避
可能であれば、アレルギーの原因となるアレルゲンを避けることが理想的です。例えば、ダニに対してアレルギーがある場合、寝具をこまめに洗濯し、部屋を定期的に掃除することでダニの数を減らすことができます。また、花粉が多い季節には、外出後に犬の体を拭いたり、頻繁に水浴を行って皮膚に付着した花粉を取り除くことが効果的です。

2. 薬物療法
抗ヒスタミン薬やステロイドが使用されることがあります。抗ヒスタミン薬は、かゆみを抑える効果がありますが、全ての犬に効果があるわけではありません。ステロイドは強力な抗炎症作用があり、短期間で症状を緩和することができますが、長期間使用すると副作用のリスクが高まるため、慎重に使用されるべきです。最近では、免疫抑制剤(シクロスポリン)や、免疫系をターゲットにした新しい薬(オクラシチニブやロキベトマブ)も利用されています。

3. 免疫療法(アレルゲン免疫療法)
アレルゲン免疫療法は、少量のアレルゲンを体内に少しずつ投与することで、犬の免疫系を訓練し、アレルギー反応を抑える方法です。この治療は時間がかかるものの、長期的な効果が期待できる場合があります。皮下注射や舌下投与が行われ、犬の体がアレルゲンに対して鈍感になることを目指します。

4. スキンケアとシャンプー
皮膚のバリア機能を維持するため、保湿効果のあるシャンプーや、皮膚に優しいスキンケア製品が用いられます。定期的にシャンプーをすることで、皮膚の汚れやアレルゲンを洗い流し、皮膚の健康を保つことが重要です。また、オメガ-3脂肪酸やビタミンEを含むサプリメントを与えることで、皮膚のバリア機能を強化し、症状の緩和に役立てることができます。

5. 食事療法
アレルギー反応を引き起こす食材を特定し、それを除去するための食事療法が行われることもあります。これは、食物アレルギーがアトピー性皮膚炎と関連している場合に効果的です。食物アレルギーを疑う場合、獣医師と相談のうえ、特定の成分を含まないアレルギー対応フードに切り替えることで症状が改善することがあります。

アトピー性皮膚炎の治療目標

犬のアトピー性皮膚炎の治療において、主な目標は次の3点です。

  1. かゆみを抑える
    アトピー性皮膚炎の最も辛い症状の一つは、持続的なかゆみです。犬はこのかゆみによって皮膚を掻きむしり、結果的に炎症や二次感染が発生します。そのため、かゆみを効果的に抑えることが最優先されます。
  2. 炎症を鎮める
    かゆみと共に皮膚の炎症もアトピー性皮膚炎の特徴的な症状です。皮膚の炎症をコントロールし、症状の悪化を防ぐことが治療の中心となります。特に、掻き壊しによる皮膚の損傷を防ぐことが重要です。
  3. 皮膚のバリア機能を改善する
    アトピー性皮膚炎では、皮膚のバリア機能が弱くなっていることが多く、これがさらなるアレルゲンの侵入や皮膚の乾燥、感染を引き起こします。皮膚の健康を回復させることが長期的な症状の改善につながります。

治療の基本的な流れ

治療は症状の進行度や犬の健康状態に合わせて調整されますが、一般的な流れは以下のようになります。

1. 初期診断と検査
治療を開始する前に、まずアトピー性皮膚炎であることを確定するための診断が行われます。通常、獣医師は他の皮膚疾患や食物アレルギーとの鑑別を行い、アレルゲンテストや血液検査、皮膚の生検などを通じて診断を下します。また、症状の程度や犬の体調に基づき、適切な治療方針が立てられます。

2. 短期治療と症状のコントロール
症状が急性の場合、短期間で効果が期待できる薬物療法が行われることがあります。ステロイドや抗ヒスタミン薬、オクラシチニブ(商品名:アポキル)など、即効性のある薬剤が使用され、炎症とかゆみを抑えます。ただし、ステロイドは長期使用で副作用が出る可能性があるため、必要最小限にとどめることが望ましいです。

3. 長期治療とアレルゲン管理
短期的な治療で症状が安定した後は、長期的な管理に移行します。アレルゲンを避けるための環境管理、免疫療法、皮膚ケアなどを組み合わせ、再発を防ぎます。アトピー性皮膚炎は完治が難しい病気であるため、症状をコントロールしながら、犬の生活の質を向上させることが治療の中心となります。

具体的な治療法

1. アレルゲンの特定と除去
アレルゲンが何であるかを特定するために、血液検査や皮膚テスト(アレルゲン検査)が行われることがあります。これによって、犬が何にアレルギーを起こしているかを突き止め、それに基づいた対策が取られます。たとえば、ダニやハウスダストが原因の場合、部屋の清掃頻度を増やし、寝具を定期的に洗濯することが推奨されます。また、花粉が原因の場合、外出後に犬の体を拭いたり、空気清浄機を使うことで症状を軽減することができます。

2. 薬物療法
薬物療法は、主に炎症やかゆみを抑えるために用いられます。抗ヒスタミン薬やステロイド、オクラシチニブ、さらには免疫抑制剤(シクロスポリンなど)が代表的です。以下にそれぞれの特徴を詳しく説明します。

抗ヒスタミン薬
かゆみを引き起こすヒスタミンという物質の作用を抑える薬です。比較的副作用が少なく、軽度の症状に効果的ですが、すべての犬に有効というわけではありません。

ステロイド
強力な抗炎症効果があり、急性症状の改善に非常に効果的です。しかし、長期間使用すると副作用(体重増加、免疫力低下、糖尿病など)が現れることがあるため、短期間の使用に限定されることが一般的です。

オクラシチニブ(商品名:アポキル)
比較的新しい薬で、かゆみや炎症を効果的に抑えることができ、副作用も少ないとされています。多くの犬で症状の改善が見られ、ステロイドに代わる治療として注目されています。

ロキベトマブ(商品名:サイトポイント) 

ロキベトマブは、2019年に犬向けに承認された抗体医薬です。この薬は、アトピー性皮膚炎によるかゆみに関与する体内のサイトカイン、IL-31を特異的に抑制します。その効果が「抗体」と呼ばれる物質を利用しているため、抗体医薬と分類されます。ヒト向けには、2018年に「デュピルマブ」という別の抗体医薬が認可されています。

免疫抑制剤(シクロスポリン)
長期的な治療に用いられることが多く、免疫反応を抑えることでアレルギー反応を軽減します。効果が現れるまでに数週間かかることがありますが、ステロイドよりも副作用が少ないため、長期管理に適しています。

3. 免疫療法(アレルゲン免疫療法)
アレルゲン免疫療法は、特定のアレルゲンに対する免疫系の反応を鈍感にすることを目的とした治療法です。少量のアレルゲンを定期的に投与することで、体がそれに対して過剰な反応を示さなくなるように慣らしていきます。この治療は長期間かかりますが、成功すればアレルギー症状を大幅に改善できる可能性があります。皮下注射や舌下投与が一般的な方法です。

4. スキンケアと保湿
アトピー性皮膚炎の犬は、皮膚のバリア機能が低下していることが多いため、皮膚を保湿し、健康な状態を保つことが重要です。皮膚を保護するための専用の保湿剤や、アレルギーを引き起こしにくい成分を含むシャンプーが使用されます。定期的にシャンプーをすることで、皮膚に付着したアレルゲンや汚れを取り除き、皮膚を清潔に保つことができます。

5. 食事療法
食事アレルギーがアトピー性皮膚炎と併発している場合、アレルギーを引き起こす可能性のある成分を除去した食事療法が行われます。専用のアレルギー対応フードや、手作り食を利用することで、症状の改善が見られることがあります。また、オメガ3脂肪酸やビタミンEなどのサプリメントも、皮膚の健康をサポートするために使用されることがあります。

ステロイドについて

ステロイドはアトピー性皮膚炎の治療において非常に有効な薬です。速やかに効果を発揮し、費用も比較的安価ですが、副作用があることも知られています。アトピーの治療で使われるステロイドは「コルチコステロイド」と呼ばれ、副腎から分泌されるホルモンに似た性質を持ち、炎症や免疫反応を抑える働きをします。最もよく使われるのがプレドニゾロンです。

ステロイドの誤解

「ステロイドは怖い薬だ」といった話を耳にすることがありますが、ステロイドがどのような副作用を持ち、どのような場合にリスクが高まるのかを正確に理解している人は少ないようです。ここで注意したいのは、運動選手が使う「アナボリックステロイド」と治療で使うコルチコステロイドは全く異なる薬剤であることです。アナボリックステロイドは筋肉を増強する目的で使われ、副作用が非常に強いのに対し、コルチコステロイドは炎症や免疫反応を抑える目的で使用され、正しく使えば大きな恩恵をもたらします。

ステロイドの副作用

ステロイドには副作用があり、短期的な使用でも影響が見られることがありますが、適切に使用すればそれほど心配はありません。以下に主な副作用を示します。

短期間の副作用
  • 食欲増加
  • 水分摂取量の増加
  • 排尿回数の増加

これらは一時的なものであり、通常はそれほど心配する必要はありません。また、用量や個体差によっては、胃腸障害や感染症にかかりやすくなることがあります。

長期間使用時のリスク

長期にわたる使用では、以下のような深刻な副作用が現れる可能性があります。

  • 肥満
  • 筋力の低下
  • 皮膚が薄くなる
  • 胃・十二指腸潰瘍
  • 肝臓への負担
  • 副腎機能の低下(医原性クッシング症候群)
  • 糖尿病のリスク増加

特に、急にステロイドを中断すると「アジソン病」と呼ばれる深刻な症状が現れることがあり、最悪の場合、命に関わります。そのため、投薬をやめる際は獣医師の指示に従い、徐々に減量することが必要です。

ステロイドを使用する理由

ステロイドの最大の利点は、その即効性と高い効果です。特に動物の皮膚病では、外用薬の効果が限られるため、内服薬や注射による治療が中心になります。ステロイドは、ほぼ全ての症例で効果が期待できる上、価格も手頃で、他の薬剤と併用することで相乗効果が得られることも多いです。

また、犬や猫は人間よりもステロイドの影響が出にくいとされており、特に猫は比較的安全に使用できます。ただし、大型犬では影響が出やすいことがあるため、投与には注意が必要です。

ステロイドを使用すべき場面

ステロイドを使用する際は、その必要性をしっかりと見極めることが重要です。以下の場合には、ステロイドの使用が推奨されます。

  • 明確な診断に基づき、ステロイドが第一選択薬である場合
  • QOL(生活の質)が著しく低下しており、ステロイドの使用が改善に繋がる場合
  • 他に効果のある薬剤が見つからない場合

一方で、以下のような場合にはステロイドの使用を避けることが推奨されます。

  • ステロイドを使用しなくても、QOLが大きく損なわれていない場合
  • 他に効果的な治療法がある場合
  • ステロイドの副作用が現れている場合
  • ステロイドが病状を悪化させる恐れがある場合

まとめ

ステロイドは効果の高い薬剤ですが、副作用があるため、使用には慎重さが求められます。不安がある場合は、必ず担当の獣医師に相談し、インターネットなどの非科学的な情報に惑わされないようにしましょう。


分子標的薬(JAK阻害薬)オクラシチニブ -かゆみを抑える新しい治療法-

オクラシチニブは、犬のアトピー性皮膚炎に対する最新の治療法として注目されている薬で、かゆみを効果的に抑えることができる分子標的薬(JAK阻害薬)です。以下に、この薬の特徴や効果、注意点について詳しく説明します。

オクラシチニブの特徴

  • 有効率:60〜80%の犬に効果が見られる
  • 効果発現:非常に早く、半日から1日以内にかゆみが軽減される
  • 副作用:少ないとされている
  • 費用:比較的高価だが、効果が高いため費用対効果は良好

JAK阻害薬(ヤヌスキナーゼ阻害薬)オクラシチニブとは?

オクラシチニブは、2016年に犬で認可された薬で、JAK阻害薬の一種です。JAK阻害薬は、体内の特定の炎症性物質(サイトカイン)が引き起こすかゆみや炎症を抑制することで、アトピー性皮膚炎の症状をコントロールします。JAK阻害薬は主に免疫反応を制御する働きがあり、ヒトのリウマチなどの治療にも使用されることがありますが、アトピー性皮膚炎治療薬として先に獣医療で実用化された点が特徴です。

オクラシチニブの良い点

オクラシチニブの最大の利点は、その効果発現の速さです。薬を投与してからわずか半日から1日以内にかゆみの軽減が期待できるため、アトピー性皮膚炎の犬の苦痛を迅速に解放することができます。さらに、この薬はステロイドと比較して副作用が少ない点も魅力です。多くの犬で副作用がほとんど見られないため、長期間使用する場合でも比較的安全に管理できるとされています。

オクラシチニブの注意点

オクラシチニブはあくまで「かゆみを抑える薬」であり、アトピー性皮膚炎自体を根本的に治療する薬ではありません。薬の効果で一時的にかゆみを抑えることができますが、投薬を中止すれば、かゆみは再発する可能性があります。したがって、症状をコントロールするためには、継続的な使用が必要となります。

また、すべての犬に効果があるわけではなく、約60〜80%の犬にしか効果が認められていません。かゆみがひどいからといってすぐにオクラシチニブを使用するのではなく、他の皮膚疾患(感染症や他のアレルギーなど)がないか、動物病院で正確な診断を受けることが重要です。

長期的な使用とリスク

オクラシチニブは比較的新しい薬であり、長期的な使用に関するデータがまだ十分に蓄積されていません。そのため、長期間使用した場合の副作用やリスクが完全には明らかになっていないのが現状です。長期的な管理については、獣医師と相談しながら慎重に使用する必要があります。

オクラシチニブの使用方法

この薬は、ステロイドの使用が困難な場合や、ステロイドの投与量を減らしたい場合に特に有効です。また、ステロイドに耐性ができた場合や、副作用が強く出た場合には、代替治療として積極的に使用されることがあります。

ただし、オクラシチニブは「アレルギー性皮膚炎」のみに対して効果を発揮する薬です。その他の皮膚疾患(感染症、自己免疫疾患など)には使用されないため、診断が非常に重要です。獣医師による正確な診断を基に、適切な治療法としてオクラシチニブが処方されることが理想的です。



抗体医薬(ロキベトマブ) -ピンポイントで治療する新世代の薬-

ロキベトマブは、犬のアトピー性皮膚炎に対する新しい治療法として注目されている薬です。抗体医薬として、かゆみの原因を直接ターゲットにして症状を抑えるこの薬は、従来の治療薬とは異なる特性を持ちます。以下に、ロキベトマブの特徴や利点、注意点について詳しく説明します。

ロキベトマブの特徴

  • 有効率:約60〜80%の犬に効果が認められている
  • 効果発現:1日程度で効果が現れる
  • 副作用:少ないとされている
  • 費用:高価であるが、効果を考慮すると価値がある

抗体医薬「ロキベトマブ」とは?

ロキベトマブは、2019年に犬のアトピー性皮膚炎治療のために認可された抗体医薬です。この薬は、アトピー性皮膚炎のかゆみを引き起こす原因物質の一つであるIL-31(インターロイキン31)というサイトカインに作用し、その働きを抑制します。IL-31はかゆみの発生に関与しており、この物質をターゲットにすることで、かゆみを効果的に軽減することが可能です。

「抗体医薬」とは、体内の特定の分子やタンパク質をターゲットにして、その働きを抑える薬のことです。ロキベトマブは合成されたIL-31に対する抗体で、IL-31に特異的に結合し、かゆみのシグナルを抑えることで、犬のアトピー性皮膚炎の症状を和らげます。
人間では、2018年に「デュピルマブ」という別の抗体医薬がアトピー性皮膚炎治療薬として認可されていますが、ロキベトマブは犬専用に開発された治療法です。

ロキベトマブの良い点

1. 効果が早く現れる
ロキベトマブの大きな利点は、その効果の速さです。投与から1日程度でかゆみが軽減されるため、犬のかゆみを迅速に取り除くことができます。かゆみが激しい場合や急性の症状に対しても、この作用は非常に有効です。

2. 副作用が少ない
ロキベトマブは、IL-31という特定のサイトカインにのみピンポイントで作用するため、他の治療薬に比べて副作用が少ないとされています。この特異的な作用メカニズムにより、体全体の免疫系に過度な負担をかけることなく、かゆみを抑えることができます。

3. 投与回数が少ない
ロキベトマブは、1ヶ月に1回の注射で済むため、飼い主にとっても手間が少なく、犬にとってもストレスが少ない治療法です。定期的に通院する必要はありますが、頻繁に薬を投与する必要がないため、管理がしやすい点も利点の一つです。

ロキベトマブの注意点と欠点

1. 根本的な治療ではない
ロキベトマブは、アトピー性皮膚炎の根本的な原因を治療する薬ではなく、かゆみを一時的に抑える薬です。つまり、薬を中止すると再びかゆみが発生する可能性が高いため、症状をコントロールするためには継続的な使用が必要です。かゆみに対する「ブレーキ薬」としての位置付けであるため、治療を止めると症状が再発することを理解しておく必要があります。

2. すべての犬に効果があるわけではない
約60〜80%の犬に有効とされていますが、全ての犬に同じ効果が見られるわけではありません。効果が見られない場合には、別の治療法を検討する必要があります。アトピー性皮膚炎であるかどうか、正確な診断が重要です。

3. 高価な薬である
ロキベトマブは、比較的新しい薬であり、その価格は高めに設定されています。長期的な使用が必要な場合、費用がかさむことがあります。しかし、治療効果が高いことを考慮すると、かかる費用に対しての効果は高いと言えます。

4. 長期的な管理が確立されていない
ロキベトマブは比較的新しい治療薬であり、長期的な使用に関するデータがまだ十分に集まっていません。特に、長期間使用した際の副作用や体への影響が完全には明らかになっていないため、慎重な使用が必要です。獣医師と定期的に相談しながら、犬の状態に応じて治療計画を立てることが重要です。

ロキベトマブの使用方法

ロキベトマブは、ステロイドが使用できない場合や、ステロイドの副作用を避けたい場合に、積極的に使用されることが多いです。ステロイドと異なり、副作用が少ないため、長期的な治療を行う際にも比較的安心して使用できます。

ただし、この薬は「アトピー性皮膚炎」専用の治療薬であり、他の皮膚病に対しては効果がありません。例えば、感染症や他のアレルギーによる皮膚病には適さないため、正確な診断が必要です。動物病院でアトピー性皮膚炎であることをしっかり確認し、そのうえで適切な治療を受けることが重要です。


ロキベトマブは、犬のアトピー性皮膚炎のかゆみを抑えるための新しい選択肢として、多くの犬に効果をもたらしています。しかし、長期使用のリスクや費用を考慮しつつ、獣医師と相談しながら継続的に管理することが重要です。


スキンケアの重要性

アトピー性皮膚炎の治療というと、薬物療法が注目されがちですが、皮膚そのものを強化するスキンケアも非常に重要です。近年の皮膚研究の進展により、スキンケアの役割が見直されています。特にアトピー性皮膚炎では、皮膚のバリア機能を保護し強化することが症状の緩和に欠かせません。スキンケアは以下の2つの柱に分けられます。

1. シャンプー

アトピー性皮膚炎の犬に使用するシャンプーは、刺激が少なく保湿効果の高いものを選ぶ必要があります。市販のシャンプーではなく、獣医師に相談し、犬の皮膚に合った製品を使用することが重要です。

アトピー性皮膚炎では、かゆみに加えて、二次感染(細菌や酵母菌による皮膚感染症)を引き起こすことがあります。このような場合、殺菌効果のあるシャンプーでまず皮膚を清潔にし、その後、アトピー性皮膚炎に適した保湿シャンプーを使うという二段階のケアが推奨されます。

また、近年の研究では、皮膚の上に存在する細菌群(マイクロバイオーム)がアトピー性皮膚炎の症状に関与していることがわかってきました。皮膚のマイクロバイオームのバランスを整えることが、皮膚の健康維持に役立つとされています。動物病院では、こうしたマイクロバイオームに配慮したシャンプーも取り扱っているため、必要に応じて活用するのも一つの方法です。

ただし、シャンプーはあくまで「洗浄」を目的としたものであるため、洗いっぱなしでは皮膚に少なからず負担がかかります。洗浄後には必ず保湿を行い、皮膚の健康を維持することが欠かせません。

2. 保湿

スキンケアの中で最も重要なのは、保湿です。元東京農工大学教授の岩崎らによる研究では、アトピー性皮膚炎の犬は、皮膚の保湿成分であるセラミドが不足していることが確認されています。

セラミドは、皮膚の細胞間脂質の一部であり、皮膚に水分を保持し、外部からの異物や病原体から皮膚を守るバリアとして働きます。このセラミドが不足すると、皮膚が乾燥し、バリア機能が低下するため、細菌やアレルゲン(アレルギーの原因物質)が皮膚を通じて侵入しやすくなります。結果として、皮膚炎やかゆみなどの症状が悪化します。

乾燥した皮膚は、かゆみの原因にもなります。これは人間でも経験することですが、保湿を行うことでかゆみが和らぐことが科学的にも証明されています。アトピー性皮膚炎の犬は、常に皮膚が荒れて乾燥しがちなので、毎日の保湿ケアが推奨されます。

シャンプーは毎日行う必要はありませんが、保湿は毎日行うべきケアです。近年では、犬専用の高機能な保湿剤が多数市販されており、これらを積極的に取り入れることで、皮膚の状態を改善し、症状のコントロールに役立てることができます。


アトピー性皮膚炎の治療において、薬物療法に加え、皮膚の健康を保つためのスキンケアが欠かせません。特に、適切なシャンプーと保湿の組み合わせが、犬の生活の質を大きく向上させるポイントです。

皮膚病の治療はトレア動物病院へ

犬の皮膚病は非常に多様であり、その治療には専門的な知識と経験が必要です。当院では、年間1000例以上の皮膚病患者を診療しており、これまでの豊富な経験を基に、適切な診断と治療を行っています。特に、初診時には十分な時間をかけて問診と検査を行い、症状の原因を徹底的に探ることで、最適な治療法を提案しています。皮膚の異常や痒みが見られた場合は、早めに専門の診療を受けることが大切です。症状が軽いうちに治療を開始することで、重篤化を防ぐことが可能です。お困りの際は、ぜひ当院にご相談ください。

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